ラマン分光法によるDLCコーティングの評価
2025.01.15 技術情報
DLC(ダイヤモンドライクカーボン)とはダイヤモンドとグラファイトの両方の特性を持つ炭素材料であり、工業分野で広く利用されています。DLCはsp3炭素とsp2炭素をあわせ持っており、それぞれの構造の比率を変えることによって性質が変化します。さらに水素原子の含有の有無や含有量によっても物性が変化することが知られています。DLCは構成されるsp3炭素、sp2炭素、水素のバランスによって右の三相図のように分類されます。
よって、使用目的に適したDLCコーティングが施されているかを確認するためには、その構造を知ることが重要となります。ラマン分光法では炭素材料のsp3炭素、sp2炭素を区別して観察することができ、得られたデータよりDLCの特性を評価することが可能です。
ここでは、DLCコーティングが施された金属部品の測定事例を紹介します。市販の切削ドリルの刃、自転車のチェーンを試料として、表面のDLCコーティングについてラマン測定を行いました。それぞれのラマンスペクトルおよびカーブフィッティングによってピーク分離したスペクトルを下図に示します。
得られた各スペクトルを見ると、1350cm-1、1550cm-1付近にピークが確認できます。これらはDバンド、Gバンドと呼ばれる炭素材料に特徴的なピークであり、それぞれsp3炭素、sp2炭素に由来します。切削ドリル、自転車チェーンともにDバンド、Gバンドの強度比は同程度であるものの、切削ドリルの方がピークの半値幅が小さくなっています。これより、切削ドリルのDLCコーティングの方が結晶性が高いと考えられます。このようにラマン分光法では炭素結合を観察できるため、DLC以外にも様々な炭素材料の評価に役立ちます。
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