連載コラム『ティーブレイク』(20)
2024.09.13 技術研究、コラム
気候変動と遺跡
2024年2月、ISO(国際標準化機構)から全てのマネジメントシステム規格(MSS)に「気候変動への配慮」を盛り込むという追補改訂が行われた。ISOでは、品質、環境、労働安全、情報セキュリティなど様々な分野でMSSがあるが、今回、共通テキストに「組織は気候変動が関連する課題であるかどうか決定しなければならない」という要求事項が盛り込まれることになった。
気候変動に関しては、COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)にて世界各国が大気中の温室効果ガス(二酸化炭素やメタンなど)濃度の安定化、カーボンニュートラルや脱炭素の実現を目指しているが、もう地球温暖化どころではなく、沸騰化の段階に入ってしまったのではないかとの声も聞かれる。確かに、日本においても、今年の夏は猛暑どころか、酷暑であり、沸騰化そのものかもしれない。そんな中、ISOは気候変動に組織を挙げて取組んでいくことを宣言し、サステナブルな社会の実現に向け、いよいよマネジメント認証の世界が動き出した。今後の成果に大いに期待したいものである。
気候変動などの環境変化が人類の生活に大きな影響を及ぼすことは、今に始まったことではなく、太古の昔から間氷期、氷河期などを経て人類は進化してきたが、現在の地球温暖化は人類活動が原因で巻き起こした環境の変化である点が大きな違いではないだろうか。
我々は、その環境の変化にいろいろな場面で遭遇することができる。かつて愛知万博でマンモスの像が展示されていたが、遥か昔に死に絶えたマンモスが環境変化により凍結土の中から蘇り、我々現代人に何を語ったのでしょうか。マンモスをご覧になった方は何をお感じになられたでしょうか。
また、昨年末、琵琶湖が渇水となり琵琶湖を水源とする地域の方々は大きな影響を受けたことと思いますが、そんな大変な時に水没していたある遺跡が出現したと報道された。かつて琵琶湖湖岸にあった坂本城(城主:明智光秀)の石垣が顔を出したのです。また、今年2月に同地区の宅地開発現場からもこれまた石垣が出現し、偶然にもかつての坂本城の縄張りであることが判明したとのニュースが全国を駆け巡った。戦国時代、湖岸に築かれた城が時代や環境の変化で姿を消していたものが、これまた環境の変化で現代の世に再び姿を現した。これはいったい何を物語っているのでしょうか。
かつて明智光秀は「敵は本能寺にあり」と叫んだと言われていますが、現世に蘇り、敵はどこだと言いたいのでしょうか。
この現象は、気候変動がもたらした歴史のロマンという甘いものではなく、過去からの警鐘、いや未来への忠告ではないでしょうか。
2024年9月2日 TTC参事 菊谷 彰