連載コラム『ティーブレイク』(13)
2023.07.13 技術研究、コラム
歴史に学ぶ
ある日、何気なく見ていたテレビ番組に吸い寄せられ、最後には食い入るように見入ってしまった。番組では、江戸時代後期に京都にあった私塾の蔵を紹介していたが、その内容が驚くべきものであった。
爬虫類や魚類などの生物標本(何やら怪しげな液体漬けされた爬虫類標本や綺麗な魚類の剥製)、鉱物(水晶など多種)、植物絵(精緻なスケッチ)など、出て来るわ出て来るわ、現代の博物館クラスの内容ではないか。蔵書の中には、硝石(大砲の原料)を土から製造する方法を記述した書籍や暗号表などがあり、収集された蔵書の数は半端でないとともに、内容も文化財級のものであるらしい。まあ、自然科学から軍事まで幅広い範囲であるが、一体この塾は何の研究をしていたのであろうか。
塾の名は、「山本読書室」といい、江戸時代後期から幕末にかけ、1600名もの門人が集い、各々好奇心のままにいろいろな研究を行っていたようであり、日本の近代化に貢献する人物を数多く輩出したそうである。
幕末といえば、尊王攘夷など日本の国が大きく揺れ、混乱していた時代に、飽くなき好奇心の赴くままに研究を行い、その成果を標本や書籍として残した集団がいたことに驚いた。幕末の志士は武力で国を変革し、この山本読書室に集った門人は知を武器に社会を変革しようとしたのであろうか。
自分が不思議に思うことに興味を持ち、実際に自分の手で触れ、においを嗅ぎ、野山を自分の足で歩き回り採集し、そして研究成果を記録した。門人たちが100年間に蓄積したデータは膨大なものになるらしい。データベース化し、最近はやりの人工知能を活用し解析すると時代を超えて新たな知見が得られるかもしれない。
毎日のように、生成AI(人工知能)の話題がメディアを賑わし、活用だ、いや規制だと議論の真っ只中であるが、使い方次第ではないだろうか。
現代を生きる我々は生成AIを適切に使いこなすとともに、山本読書室に集った門人の姿勢も見習わなければいけないのではないだろうか。特に、環境調査や分析に関わる我々技術者は。
2023年7月4日 TTC参事 菊谷 彰