連載コラム『ティーブレイク』(6)
2022.05.23 技術研究、コラム
牡蠣殻
ウクライナの戦禍や知床観光船沈没など悲しく、辛いニュースが多い中、新入社員を迎え気持ちも新たに新年度をスタートさせた組織も多いのではないかと思います。私共も新入職員を迎え、社会人マナー指導など新人教育に取り組んでいますが、組織は新人に何を期待するのであろうかと考えている時に、ある作家のことを思い出しました。
司馬遼太郎という作家が明治時代の日本を描いた作品に「坂の上の雲」という小説があります。その中で、日本とロシアが戦った日露戦争の日本海海戦を前に、ある海軍軍人(秋山真之)が、かつて日本海軍が実施した組織改革について牡蠣殻を例に語る場面があります。
牡蠣殻とは、軍艦(船)を長期間使用していると船底に牡蠣殻が付くことにより船速が遅くなったり、迅速な戦闘行動を阻害することになるため、定期的に落とすことが必要になります。この牡蠣殻を物理的に落とせば戦に勝てるかというとそうではなく、ここで秋山が問題にしたのは牡蠣殻を固定概念に例え、人、組織、作戦も古くからの慣習、しがらみ、前例と言った固定概念があると戦に勝てないということです。幸いにも、日本海海戦では当時世界最強であったロシア海軍を極東の弱小国家である日本が固定概念を打ち破る独創的な戦い方で勝ち、勝利へと導きました。
ここで取り上げたいのは、戦争に勝ててよかったということではなく、牡蠣殻、固定概念です。
人や組織は、長い間に経験を積み、知恵を付けます。この経験や知恵をもとに次の段階にステップアップ、向上させることができればよいのですが、逆に経験や知恵が改革を阻害したり、ためらわせたり、自己保身や権威の維持に使われるようになるとこれは牡蠣殻です。牡蠣殻を削ぎ落とさないと戦いに敗れ、組織は衰退します。一番恐ろしいのは、牡蠣殻、固定概念が付いているのも知らずにいることです。
新人に「どうして、そういうルールがあるんですか?」と質問され、答えられなかったことはないですか。ひょっとするとそれは牡蠣殻ではないですか。
過去のしがらみのない新人に期待するのは、牡蠣殻、固定概念が付いていることを気付かせてくれることかもしれないですね。牡蠣殻を落とすためにお風呂に入るのではなく、新人と真摯に向き合ってみるのも一つの方法かもしれないですね。
さて、皆さんはどのような方法で牡蠣殻を落とし、組織を活性化させていますか。
2022年5月23日 TTC参与 菊谷 彰